disc of the year 2022
今年印象に残った音楽をご紹介。
特にこの1年で音楽の聴き方が大きく変化しましたが、演奏者のプログラムに対するこだわりは、これからもしっかり受け止めたいと思います。
皆様、よいお年をお迎えください。
1st plaze
Fauré: Complete Songs
Cyrille Dubois
(Aparté)
フォーレの歌曲全集をひとりで録音するという夢のような企画。自分と同じテノールなのが嬉しい。いつもはソプラノで聴くイヴの歌とか、違和感や不安がないわけではなかったけど、これを払拭するに十分な歌いぶりに勇気が湧いてくる。盛大に巻かれる語尾のRがやけに古風で素敵。
2nd plaze
Stella
ORA Singers
(harmonia mundi)
このグループが、ルネサンス音楽の現代への反映、というお題目で通していることは知ってるけど、今回はウィリアム・トッドだけを目当てに聴いた。コンクールの会場で他団の演奏から聞こえてくるようなキメキメのハーモニーの連続に懐かしさが募る。
3rd plaze
Bach: Cantatas 21 & 147
Gaechinger Cantorey
(Carus)
ヤーコプス、ガーディナー、某大賞を受賞したというピションと、今年のバッハ録音は大作が目立ったが、1枚もののカンタータ集にも収穫があった。特にラーデマンが振るようになってからのゲヒンガー・カントライの剛健さが気に入っている。よい世代交代ができたみたい。
4th plaze
Bach: Cantatas for Bass
Gli Angeli Genève
(claves)
ジョスカン・プログラムでその存在を知ったリ・アンジェリ・ジュネーヴは、むしろバッハを中心とするドイツものを得意としているらしい。たぶんバッハの大作はすべて録音することになるのだろう。レーベルの性格から、カンタータのシリーズ化は難しいかもしれないけど、今回のソロ・カンタータを聴けば期待もしたくなるというもの。
5th plaze
Sacred Chants
Grace Davidson
(signum)
レパートリーの幅が広いグレイス・デヴィットンがヒルデガルトをひとりで録音。現代的発声で綺麗に歌われると、かえって1曲1曲の濃厚さが際立ち、とても聞き流すわけにはいかなくなる。なんとも聴き疲れのする音楽だ。途中で停止ボタンを押さざるを得ない。だから、1枚を通しで聴いたことはない。
6th plaze
Brahms: Complete Liebeslieder Walzer
RIAS Kammerchor
(harmonia mundi)
ブラームスの愛の歌的なレパートリーをまとめた1枚。ハンガリー舞曲を挿むことによって、ジプシー成分を盛大に充填。ストリーミングの時代になってみると、プログラミングの妙という言葉で片づけられない立派な付加価値になっている。
7th plaze
Ein Menschliches Requiem
Vlaams Radiokoor
(Evil Penguin)
録音が増え続けているピアノ伴奏版のドイツ・レクィエム。ブラームスの意図を受け継ぐように「ドイツ」を「人間」に置き換えたというプログラムは、シューマンの「子供の情景」を挿んだもの。確かにシューマンとの関係さながらに人間くさいものになったような気がする。
8th plaze
Villard & Martin – Doubles messes a cappella
Académie Vocale de Suisse Romande
(claves)
マルタンのミサを目当てに聴き始めたが、前半のヴァランタン・ヴィラールのミサがマルタン同様のボリューム感で迫ってきた。これは侮れない。演奏するスイス・ロマンド・ヴォーカル・アカデミーも、どうやらアンセルメとは無縁らしい21世紀のグループ。
9th plaze
Lux Aeterna
DR Vokal Ensemblet
(OUR Recordings)
リゲティとコダーイの組み合わせ。コダーイはともかく、リゲティにハンガリーの匂いを意識することはなかったけど、そういえばハンガリーだったな。このプログラムはリゲティに大きくスペースを割く。今に始まったことではないけど、デンマーク国立放送のアンサンブルは滅法上手い。
10th plaze
John Cage: Choral Works
Latvijas Radio Koris
(Ondine)
数少ないケージの「合唱曲」で1枚つくるのはもともと無理がある。というわけで編曲・変奏ものを織り交ぜた。ラトヴィア放送合唱団の演奏に不足はないが、どうせなら4分半無音のトラックがあってもよかった。
tag:
prev: disc of the year 2021
next: