レコード芸術6月号 特集 愉悦の古楽器演奏(続)

2008.06.01 | paper |

レコード芸術 2008年 06月号 [雑誌]

「中世・ルネサンス編」に続いて番外編の中世ルネサンス声楽作品のページへ。番外扱いにはがっかりだが、「古楽器」特集だから声楽作品はあくまでおまけということらしい。だけど本編でもボルヌスのオケゲムあたりはOK。なぜ?

この番外編は「中世におけるポリフォニーの発祥とルネサンス初期までの展開を声楽作品の紹介を通して概観し」「中世音楽そのものに対して体系的な関心を持たないリスナーを基本的な対象とし」「網羅的な記述には拘泥せずに」「耳で聞きとれる変化が克明にあらわれるポイントに絞って」のチョイスらしい。小見出しの「感動的傑作、デュファイのミサ・プロラツィオーヌム」に絶句。

宣言どおり中世7枚にルネサンス3枚という中世シフトの10枚。確かに中世の方が期間も長いし技法の発展過程も厚いのでこれは妥当。フランス偏重も同じ。決して選者のバックグラウンド故の限界なんていうことではない。はず。でも、「耳で聞きとれる変化」や古楽器特集であることを考えると、トレント以降の動向とかローマ以外での楽器を使った典礼とか、目配りすべきポイントがいろいろあると思う。ルネサンス初期で終わるなよというのが正直な感想。演奏団体がイギリスのグループとアンサンブル・ジル・バンショワでほとんどを占められたのは結果的にはイマイチで、廃盤を気にしないなら旧opus111とかフランスの連中が入ってきてもよかった。

■ フランスの最初のポリフォニー アンサンブル・ジル・バンショワ

Premieres Polyphonies Franc

Les premieres polyphonies Françaises – Organa et tropes XIe siècle
Ensemble Gilles Binchois
(Virgin: 7243 5 45135 2)

これは厳選の名に恥じないCDだと思う。当サイトでも同じような企画を立てたらまず9割くらいの確率で入ってくるのではないか。素朴な初期ポリフォニーに彼らのふんわりサウンドがぴったりマッチ。このジャンルを初めて聴くという方をすんなり受け入れるだけの包容力のある演奏だ。素朴だけど十分に美しく、これを聴くとノートルダム楽派周辺が妙に野暮ったく思えたりして。

■ 光の日~12世紀アキテーヌの修道院の音楽 セクエンツィア

Celebrate Christmas With Sequentia

shining light – Music from Aquitanian Monasteries
Sequentia
(deutsche harmonia mundi: 05472 77383 2)

ここで刻むか。最初の2枚で11世紀と12世紀の違いを聴けと。ドイツ・ハルモニア・ムンディに2枚あるセクエンツィアのアキテーヌものの1枚。好きな演奏なので入れてくれたのは嬉しいけど。上のEGB盤の後にこのCDが入る余地は普通はほとんどない。古楽器ということを考慮して聖母マリアのカンティガとか、そうでなくてもラ・スウェルガス写本とか、スペイン方面で何か入れとくかどうかというところ。

■ レオニヌス師(レオナン):12世紀パリの宗教音楽 レッド・バード

Sacred Music From 12th-Century Paris

magister Leoninus – Sacred Music from 12c. Paris
Red Byrd, Cappella Amsterdam
(hyperion: CDA66944)

レコ芸ではグループ名が落ちているけど演奏はレッド・バード。ノートルダム楽派でペロタンの他にレオナンを区別して入れてくるというのは、10枚厳選を考えるとやはりすごいこだわり。自分ならノートルダム楽派はペロタン+αの1枚もので済ませる。演奏は決して悪くない。というか、レオナンを聴くならファースト・チョイス。

■ 1160~1245ペロタンとノートルダム楽派 アンサンブル・ジル・バンショワ

1160-1245 Perotin & The School of Notredame

Pérotin & L’École de Notre Dame
Ensemble Gilles Binchois
(ambroisie: AMB9947)

ノートルダム楽派としてはこちらが本命。依然としてEGBのアルモニク録音の評価が高いけどアルモニクは入手困難だし新しい録音がアンブロワジーにあるからこちらで、ということなのか。その考えには賛同。ロンドン古楽コンソートとかヒリヤードとかいろいろCDはあるが、ここら辺はもうセカンド・チョイス以下ということでいいか。

■ ギョーム・ド・マショー:ノートル・ダム・ミサ ヒリヤード・アンサンブル

Messe De Notre Dame

Guillaume de Machaut: Messe de Notre Dame
The Hilliard Ensemble
(hyperion: CDA66358)

どうしてここでヒリヤードなのか・・・。アルモニックのEGB盤を入れるのは難しいということなのか?でも本命はEGB。対抗はアンサンブル・オルガヌムか。オックスフォード・カメラータやヴォーカル・アンサンブル・カペラの演奏もいい。自分ならヒリヤードはその後だ。上声は柔らかく中低声を効かせて、というのが基本なので。知的な聴き方じゃないのは承知の上。

■ 悪魔の歌:マショーとデュファイのはざまで ロンドン中世アンサンブル

Diabolic Chant

Ce Diabolic Chant
London Medieval Ensemble
(L’Oiseau-Lyre)

これは未聴。ロンドン中世アンサンブルのCDはデュファイ・オケゲムの世俗音楽全集とかジョスカンあたりは押さえているものの、何枚かとりこぼしている。もう追いかけるつもりもない。2人のギョーム周辺は録音が充実しすぎている領域なので、いまさら彼らの演奏で聴く必要がないというのが正直なところ。最近リイシューされたから入れたのか?

■ 600年前の異才~マッテオ・ダ・ペルージャ マーラ・プニカ

Helas Avril: Matteo da Perugia/ Chansons

Hélas Avril – Matteo da Perugia: Chansons
Mala Punica
(Erato: 8573-82163-2)

待った!マーラ・プニカはアルス・スブティリオールの魅力を最も深く掘り起こすことに成功したグループだと思っているので、彼らの録音を推薦できるならそれに越したことはないと思うが、彼らのCDはアルカナにしてもエラートにしても廃盤。廃盤がOKならノートルダムもマショーもEGBのアルモニク盤でOKじゃないか。このCDの演奏自体は言うことなし。マッテオ・ダ・ペルージャって大きい名前だし。でもアルカナのアルス・スブティリオール・オムニバスで広く浅く、の方がいいのでは。

■ ギョーム・デュファイ:聖ヤコブのための音楽 ザ・バンショワ・コンソート

Music for St James the Greater

Guillaume Dufay: Mass for Saint James the Greater
The Binchois Consort
(hyperion: CDA66997)

8枚目にしてやっとデュファイ、という驚きの展開。しかもここまでの7枚で自分が「ルネサンスの3元素」と考えている要素のうち1つしか触れられてない。デュファイで1枚となるとジャンル的にも迷うが、ミサやモテットを入れるのはやぶさかではない。でもバンショワ・コンソートか。ディアボルス・イン・ムジカのミサ・ス・ラ・ファセ・パールとかいろいろあるし、ここら辺の選択は微妙。

■ ヨハンネス・オケゲム:ミサ・プロラツィオーヌム ヒリヤード・アンサンブル

Ockeghem: Missa Prolationum

Johannes Ockeghem: Missa Prolationum, Motets
The Hilliard Ensemble
(EMI REFLEXE: CDC 7 49798 2 | Virgin)

本当にデュファイのミサ・プロラツィオーヌムがあるなら聴いてみたい。嫌味じゃなくて。このヒリヤードのオケゲムは彼らの長いキャリアの中でも屈指の演奏だと思う。特にキリエの冒頭。オケゲムの原始霧か。これは他のグループには出せない味だ。低音マニア路線のためにアンサンブル・オルガヌムによるレクイエムのCDを用意したいところだが、10枚なのでそんな余裕は全然なし。ミサ曲全集を完成しているザ・クラークス・グループはこういう企画になると全然届かず。内容からすると仕方ないけどちょっとかわいそう。

■ ジョスカン・デ・プレ:無名のミサ、フーガによるミサ タリス・スコラーズ

Missa Sine Nomine Missa Ad Fugam

Josquin Desprez: Missa Sine nomine, Missa Ad fugam
The Tallis Scholars
(Gimell: CDGIM039)

もうラストか?ジョスカンを入れないわけにはいかないのでこの選択は正しい。問題はジョスカンの何を入れるのか。ミサなのか、モテットなのか、はたまたシャンソンなのか。モテット集を入れたいところ、全編モテットで固めたプログラムで文句なしにいいと言い切れるCDがないのでミサとモテットを合わせたものの中から選ぶことになると思うが・・・タリスコか。最近の録音だし、演奏にも文句はない(一皮むけた印象強し)けど、そうか。ミサ標本プログラムか。オケゲムのミサ・プロラツィオーヌムにしてもジョスカンのフーガ・ミサにしても、技巧的に凄くて、推薦するに相応しいとは思うが。

 ・・・ということで10枚。ルネサンス後期の結構重要なポイントが置き去りにされている感じだが、いずれ5年後くらいに同じような特集が組まれるだろうから、次回を楽しみにしよう。次にレコ芸を買うのも5年後なのか。

それにしても、「すごくハイレベルな演奏が収録されててそうな未知のCDがズラリと並んでるのが嬉しくて片っ端からポチッとオーダーしまくる」幸福ってなかなか実現しない。

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